· 

ディレクト

リハーサルの際、多くの踊り手は、次のように歌に関する希望を伝えてきます。

 

「1コンパス空けてから、1つ目の歌をお願いします。」

「ジャマーダで止まったら、ディレクトで唄って下さい。」

 

ディレクトや1コンパス空けるという指示は、果たして本当に必要なのでしょうか?

 

ディレクトの効果を狙っているのならともかく、「そのように振付されているから」という理由は、お客さんにとってはあまり重要ではありません。ディレクトについて、この機会に考えてみましょう。

 

 

ディレクトに歴史あり

スペインにおいても、日本においても、この数十年のうちにフラメンコの形は大きく変わってきました。一昔前は、ディレクトで歌が唄われることは、今よりもずっと少なかったのです。

 

アレグリアスやソレアにおいて、「1つ目の歌は1コンパス空けて落ち着いて始まり、2つ目の歌はディレクトで強く始まる」…このような形は昔からよく見かけました。

 

これが刺激的・効果的である為か、他の曲種の2つ目の歌がディレクトで唄われることが増えていきました。ディレクト化は次第に進み…1つ目の歌がディレクトで唄われたり、12拍子系曲種だけでなく、4拍子系曲種やシギリージャにおいてもディレクトで唄われることが増えていきました。

 

歌の直前のジャマーダが決まった際に大きな拍手が沸き起こり、お客さんの拍手とディレクトの歌が重なると、歌が聞きにくくなってしまうので、1コンパス空けられていたという事情もあったと思われます。

 

 

 

ディレクトの効果

歌の直前のジャマーダが決まった後、1コンパス空けてから歌が唄われると、一旦落ち着いて仕切り直すことができます。

 

1コンパス空けることなくディレクトに唄われると、次のような効果を期待できます。

 

 間髪入れずに強い歌が入ると盛り上がる

 1コンパス空いて曲の流れが途切れるのを避けられる

 

効果を2つ挙げましたが、積極さという点においては対極にあります。消極的なディレクトについては、突き詰めて考えるほどの価値がないと思われますので、積極的なディレクトに関して、次の項目でお話ししていきます。

 

 

積極的なディレクト

積極的なディレクトが上手くいくと、とてもフラメンコらしい瞬間を作り出すことができます。

 

歌の直前のジャマーダが素晴らしく決まり、共演者やお客さんが大きなハレオをかける中、歌い手はそれらを圧倒するほど、感情をむき出しにして叫ぶように唄い、踊り手はその全てを受け止めて、さらに熱のある踊りをする。

 

このような場面に感動を覚えたことのある人は多いでしょう。

 

このような瞬間を作るためには、絶対条件として踊り手がジャマーダをしっかりと決める必要があります。曲の終わりと錯覚される程に、しっかりと決めましょう!

 

「歌がディレクトに唄われる予定」という程度のジャマーダでは、ディレクトによる効果はあまり期待できません。

 

 

歌い手の経験や感性

「ねぇ、ちょっと!!」と声を掛けられれば、誰でも呼ばれていることに気付きますが、「あのさぁ…」ではどうでしょうか?呼ばれていると思う人もいれば、次に何かを話されると思って、言葉の続きを待つ人もいるでしょう。

 

ジャマーダにおいても同様のことが言えます。どんな相手に対しても伝わるジャマーダもあれば、相手によっては伝わらないジャマーダもあります。どれほど完成度の高いジャマーダを行ったとしても、それが伝わるかどうかは、それを受け止める歌い手の経験や感性にもよるのです。

 

そういう不確実な要素によって、ディレクトになったりならなかったりするのは、多くの踊り手が不安に思うところかもしれません。だからこそ、リハーサルの際に、ディレクトかどうかを指示して済ませようとするのではないでしょうか?

 

 

想定しておこう!

予定通りにディレクトに唄われた場合は良いとして、ジャマーダの意図が伝わらずに1コンパス空けられてしまった場合、どのように対処したら良いでしょうか?

 

リハーサルの際に、歌い手に対してディレクトの指示を行ったとしても、歌い手が必ずそれを覚えていて実行してくれるとは限りません。人間の行うことに「絶対」はありません。「もし、1コンパス空いてしまったら…」と想定しておくのは、決して無駄なことでは無いのです。

 

踊りのジャマーダがしっかりと決まったのにディレクトに歌が唄われなかった場合、ギタリストは仕切り直すためにコンパスを弾きはじめます。1コンパス弾かれた後、歌い手は唄いはじめます。

 

このような状況で、どのように踊るか…予め対策を立てておきましょう。どうしたら良いか思い付かない人は、踊りの先生に相談しましょう。

 

ディレクトの場合と1コンパス空く場合の両方を予め想定しておけば、リハーサルの際に、歌い手に対してディレクトかどうかを指示する必要は無くなります。

 

ディレクトで唄ってほしいと希望するのなら、リハーサルの際に構成として伝えるのではなく、歌の直前のジャマーダを決めることに全力を尽くしましょう。決まったジャマーダを見た歌い手は、ディレクトで唄いたくなるでしょう………多分(笑)。

 

ディレクトの場合と1コンパス空く場合の両方を想定しておくのは、面倒なことでしょうか?ライブの度、リハーサルの度にディレクトに関する指示を行う方が、ずっと面倒ではありませんか?

 

それに…ディレクトでも1コンパス空くでも、「おまかせします!」って言える踊り手の方が、カッコいいと思いませんか?

 

最初は低いハードルから挑戦してみましょう!当日のリハーサルではなく、事前リハーサルなどでディレクトを歌い手任せにしてみると良い経験になると思います。気合いを入れて決めたジャマーダに対して、歌い手がどんな反応をするのか…こういう経験を重ねながら、感性を磨いていきましょう!